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教材出版 学林舎は学習教材の制作・販売、教育商材(理科実験工作教材・アメリカの教科書など)を取り扱っています。

【GAKURINSHA TOPICS】学習指導の行き先 2020年学習指導要領改訂に向けて

 新学習指導要領では、討論や議論を中心とした「主体的・対話的で深い学び」が新たな目標に掲げられました。総合的な学習、学校教育へのICT(情報通信技術)の導入など、授業のあり方にさまざまなアプローチが提示される一方で、そろばんなどの日本の伝統的な学習法への積極的な取り組みも見られます。具体的事例とその背景を分析します。

■伝統的な学習法 そろばん
 2005 年、「脳トレーニング(脳トレ)」のゲームソフトが発売され、脳トレの社会的ブームが起こりました。これは、100 問の計算をできるだけ短時間で解いてスピードを競ったり、数字をできるだけ多く記憶したりするなど、単純な作業によって脳の機能を向上させるためのトレーニングで、学力向上や認知症予防などの効果が期待され、社会現象になりました。
 2002 年度から実施されたゆとり教育が一因とされる学力低下、2003 年の国際学習到達度調査(PISA)の結果において日本の順位が急落した「PISA ショック」などによって、学力向上に注目が集まったこともブームの背景として挙げられます。このころ、伝統的な計算方法であるそろばんに再び注目が集まったことも、学力低下が問題視されていたことと関係があると言えるかもしれません。計算能力を高め、集中力を養うことができる、という理由からそろばんを学び始める人が増え、2006 年度から珠算検定の受検者数が増加に転じました。
 兵庫県尼崎市は、2004 年度に「尼崎計算教育特区」の認定を国から受け、「計算科」を市内の小学校に新設し、そろばんを使った学習を通して集中力や持久力の向上を図る取り組みを開始しました。1 校からスタートして5 年後の2009 年度には市内全校に拡大しました。3、4 年生それぞれがそろばんを使った授業を年間50 時間行った結果、約7 割の児童が「計算が速くなった」と回答するなど成果が現れています。

■新しい学習方法 反転授業
 子どもたちは学校の授業でほぼ初見の知識を教師から教えられ、それを宿題などで復習し定着させる、という形式が一般的な学校教育のあり方です。これとは反対に、子どもたちが授業の前に学習し、授業では議論を重視するという形式が「反転授業」です。事前の学習は教師が説明型の講義を動画として用意し、子どもたちがそれを視聴・予習します。予習では子どもたちの理解の程度の差が大きいため、さまざまな理解のレベルの子どもたち同士が授業で議論し、より応用的な問題の解決に取り組みます。これによって学び合い・教え合う協同的な学習が可能になります。講義型の従来の授業ではつかみにくい子どもたち一人ひとりの理解度が、子どもたち同士が話し合うことによって顕在化され、「落ちこぼれ」を出さない授業につながる効果があります。
 また、予習として視聴される動画は復習時に利用することもできるため、授業で十分に理解できなかった子どもたちをフォローすることも可能です。
 しかし、反転授業にはデメリットもあります。まず、動画視聴を実現するには、学校や家庭におけるICT 機器やインターネット環境の整備が不可欠で、とくにコスト面で大きな負担となります。次に、家庭での予習がなければ授業が成立しないという問題もあります。予習を確実にするためには、家庭での保護者による子どもたちの学習への働きかけがこれまで以上に必要になると予想されます。加えて、教師にとっても動画を準備する負担は大きいようです。
 佐賀県武雄市では、2014 年に公立小学校での児童一人に1 台のタブレットを支給し、反転授業を開始しました。全教科・全単元ではなく一部での実施ですが、授業が「楽しみ」と答えた児童が約8 割を超えました。また理科の授業について、「全くわからなかった」と回答した児童が当初の20%から10%まで減ったケースもありました。教師からは、授業の進め方については戸惑いがあったものの、教材研究をするよい機会になったという回答を得られたそうです。
 教育へのICT の導入など、新しい試みが進められる一方で、学校・学級・子どもたちそれぞれに合った新旧含めた授業のあり方についての議論が、今後一層活発になるでしょう。(文/学林舎編集部)