本文へスキップ

教材出版 学林舎は学習教材の制作・販売、教育商材(理科実験工作教材・アメリカの教科書など)を取り扱っています。

○Cross Road 第72回 ライフスキルは人生のリスクマネジメント 文/吉田 良治

 ライフスキルとはそのまま訳したら生きる能力となります。近年日本でも色々な場面でこの言葉を耳にする機会がありますが、具体的に何なのか詳しく理解している人は少ないと思います。WHO(世界保健機関)でもライフスキルは『日常の様々な問題や要求に対し、より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力』と定義しています。まさに複雑で困難な出来事が日々起こる現代社会で生きていくため、ライフスキルは必要なものとなっています。
 以前、アメリカ・ワシントン大学でフットボールチームのアシスタントコーチをした経験で、アメリカの大学スポーツではアスリート教育としてこのライフスキルを活用してきました。1980 年代初頭、スポーツ偏重により競技引退後に人生の破たんに陥るアスリートが増加、大学スポーツが対策として取り組んだことが始まりでした。その起源といえる1981 年から始まったプログラムがジョージア工科大学のトータル・パーソン・プログラムです。
 日本ではアスリート教育として主に2 つの側面でライフスキルのニーズがあります。一つはアメリカ同様競技引退後のセカンドキャリアに備えるためのもの、そしてもう一つが不祥事に対する備えや再発防止ということです。日本のスポーツ界では学業を疎かにしてきた歴史があり、引退後の選択肢はかなり狭まってしまいます。2020 年東京五輪・パラリンピックに向け、アスリート強化が叫ばれる中、セカンドキャリア支援をどう整えるのか、国を挙げて議論されていますが、選手と企業のマッチングといったことが主な支援となっています。ここで重要なことは、スポーツの世界において、その競技の経験のないものがいきなり活躍する場がないように、一般社会での仕事も未経験者がいきなりその仕事のレギュラー選手になれません。新たな世界で生きるための準備をしっかり整えることを支援することが求められます。
 昨年、薬物や賭博といったトップアスリートの不祥事が多発しましたが、今年もアスリートの不祥事が発生しております。不祥事防止という観点でもライフスキルは非常に重要となります。ここでライフスキルの役割はPC のウィルス対策ソフトともいえます。ウィルス対策ソフトのインストールされていないPC をインターネットに繋げると、その脆弱性から悪意のある脅威にさらされます。ですからPC をインターネットに繋げる前に、セキュリティ対策を万全に整えておく必要があります。人生を生きる上でも人生におけるセキュリティ対策にあたる、ライフスキルを整えておくことは非常に重要となります。そしてPC のウィルス対策ソフトと同様、インストールしただけでは十分とは言えません。常に新しい脅威が進化し続けていきますので、ウィルス対策ソフトを常時アップデートし、定期的にバージョンアップするように、ライフスキルも日々進化させていかねばなりません。
 日本でよく聞かれる再発防止といったものは、その場しのぎのために行われることが多く、継続性はほとんどありません。ライフスキルはいわば一生自分の人生に向き合いながら進化するために必要なものですので、一生涯自分の中で育んでいくことを目的に取り組めるようにサポートが必要となります。
 7 月の世界水泳の結果について、競泳日本代表の平井監督が総括で興味深い発言をされました。アメリカの選手は大学卒業後に大きく飛躍する傾向があるそうです。学生時代に人間力を育む取り組み、つまりライフスキルによる人間教育が、競技面でも大きな効果をもたらしている、ということです。日本のトップレベルの選手教育でも、単に競技力向上の指導には限界を感じ、総合的な人間力→トータル・パーソンを育むことに目が向き始めています。(つづく)

吉田良治さんBlog
http://ameblo.jp/outside-the-box/