2018.06.16

○Cross Road
 第82回 アメリカの大学の卒業式 文/吉田 良治

 アメリカではこの時期卒業式シーズンを迎えます。私がフットボールチームのアシスタントコーチをしたワシントン大学では、今月9 日に卒業式が行われました。約5,500 名以上の学生が卒業し、新たな進路に向け旅立っていきました。秋入学が一般的なアメリカではこれから長い夏休みに入ります。ジョージア工科大学ではワシントン大学より1 か月以上早い5 月5 日に卒業式が行われました。日本では春学期真っ只中のこの時期、アメリカの多くの大学では早くも夏休みに突入しています。
日本では大学の授業に出席し、授業を受けることが最大の目的になりがちですが、大学教育にとって重要なことは、受けた教育をどう生かすのか、ということにあります。つまり実践で活かすということになるわけですので、当然授業以外の活動に費やす時間の確保が必要になっていきます。
 授業以外の活動としては卒業後の進路に向けた準備として、企業などでのインターンシップなどがあります。実際企業の仕事を通して実践で職能力を育んでいくわけです。アメリカでは職歴がない新卒者を採用し、給料を支払い、一から手取り足取り仕事を教える企業はありません。新卒者を採用しても自力で仕事ができない状態では、雇用し給料を支払いする意味がありません。バットの持ち方すら知らないものをドラフトで指名するプロ野球球団がないように、仕事がわからないものを雇用する企業はアメリカにはないのです。そのために学生の間からインターンシップを活用し、企業で実践経験を積んでいくことが、学生にとってキャリアパースとして重要な活動になっていきます。インターンシップの経験はインターンとして受け入れた企業だけでなく、他の企業でも雇用の判断基準にもなりますので、いかに質の高い中身のある実践経験に繋げることできるかが重要です。となると、日本で一般的な1 日から3 日程度の職場体験型インターンシップとは中身が全く違ってきます。実践経験を積む期間がある程度確保できないと、1 ~ 3 日程度の職場体験で得られるものと、実践で真剣勝負をするインターンシップ経験と本質的に大きな違いが出てきません。インターンシップの評価次第では、新卒後大手企業がマネージャー職で採用することも珍しくありません。新卒者であっても初年度の年俸が6 万ドル、職種によっては初年度年収10 万ドルというケースもあります。学生時代の教育と実践の場としてのインターンシップの経験が立派なキャリアパース・職歴なるということです。
 アメリカでは大学の卒業生の多くは、まだ進路が明確になっているものはそう多くありません。日本のような何の職歴もない新卒者を対象に1 年以上前から採用活動をして、内定者を確保するような無駄なことをする企業はありません。その時期に人材が必要な部署で、必要な職種の即戦力の人材を雇用するのみです。新卒者であっても一般的な転職者と同等レベルで求職活動をします。ですから採用が決まれば1 週間から10 日以内に出社して、その日から成果を上げていくことが求められます。野球選手なら初日から即バッターボックスに立って、結果を出すことが求められます。アメリカの大学生にとっては長い夏休みであっても、のんびりと過ごす時期ではなく、将来に向けて真剣勝負をする期間であるといえます。(つづく)

吉田良治さんBlog