2018.01.20

【GAKURINSHA TOPICS】
2018年教育の行き先 はじまる学習・教育改革

 2018年度から、2020年度に予定されている新学習指導要領の全面実施に対応する移行措置がいよいよ始まります。移行措置とは、新学習指導要領の実施にあたり、現行の学習指導要領に基づいて学習している子どもたちが、新しい学習指導要領においても円滑に学習していけるように、全面実施に先駆けて内容の一部を実施することです。新学習指導要領の始まりの1年ともいえる2018年度から、どのような教育改革が行われるのかを取り上げていきます。

(1)本格的に導入される「主体的・対話的で深い学び」
新学習指導要領の全面実施まで、小学校では2018年度と2019年度の2年間、中学校では2018年度から2020年度の3年間が移行期間にあたります。文部科学省が提示する「学習指導要領の改訂に伴う移行措置の概要」によると、教科書の変更をともなわない総則・総合的な学習・特別活動においては、2018年度から新学習指導要領に基づいた指導が行われるようになります。
 新学習指導要領「総則」の中で改訂の大きなポイントの一つとなっているのが、「主体的・対話的な深い学び」です。新学習指導要領では、子どもたちの質の高い学びを実現し、生涯にわたり能動的に学び続ける姿勢を身につけさせる授業を実現すること、いわゆるアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善を行うことを掲げています。移行措置が始まる2018年度からは新学習指導要領に基づき、グループ活動や話し合いなどを取り入れた、子どもの主体性・協調性を重んじる授業が増えることになります。

(2)教員に求められる「カリキュラム・マネジメント」の実現
 新学習指導要領に基づき、2020年度からは小学校における授業時間が年間140時間増加することになっています。しかし、現在の時間割でも週28時間が限界とされており、これ以上授業時間を増やすことは簡単ではありません。このような授業時間に関する課題に段階的に取り組んでいけるよう、移行期間中には授業時間が年間15時間増えることになります。その代わりに、移行期間中においては「総合的な学習の時間」を一時的に減らすことができるようになりました。  
 また、新学習指導要領では、朝の10分から15分を利用した、朝学習などの「短時間学習」を授業時間に含むようになりました。さらに、夏休みや冬休みなどの長期休業期間に授業を行ってもよいとしました。ここで求められるのが、新学習指導要領でもポイントの一つとなっている「カリキュラム・マネジメント」です。増加する授業時間をどのように確保するかは、各自治体・各学校の教員が児童や生徒の実態に基づいてカリキュラムを考えていく必要があります。今後増えていく授業時間をどのように確保するか、移行措置の開始により教員のカリキュラム・マネジメントの模索が始まると考えられています。

(3)「外国語教育」の授業時間増加と先行実施
 新学習指導要領が定める教科において、移行期間中に大きな変更があるのが「外国語教育」です。新学習指導要領では、小学3・4年生で「外国語活動」が年間35時間、小学5・6年生で「外国語」が年間70時間設けられます。現行の学習指導要領では、小学5・6年生の「外国語活動」を年間35時間としているので、小学3年生から6年生まで、新たに年間35時間の授業数を確保しなければなりません。2020年度の全面実施に向け、段階的に授業数を増やしていくため、移行期間中に、小学3・4年生で年間15時間、小学5・6年生で年間50時間の授業数が設けられることになります。
 また、外国語教育においては、2018年度から各自治体・各学校の判断で新課程の全部あるいは一部を先行実施することができるようになります。つまり、2018年度からすでに小学3年生で年間35時間の授業を行う学校が出てくる可能性があるということです。また、先行実施する場合でも、授業時間は学校の判断にゆだねられるので、全国の学校で外国語教育の授業時間にちがいが生じると考えられます。
 外国語教育の授業数の増加は、教科書にも大きな影響を与えます。現行の学習指導要領における「外国語活動」では、文部科学省が全国の国公私立の小学校に向けて配布しているテキスト「Hi, friends!」が使用されています。このテキストは、小学5・6年生の児童が年間35時間の授業で使用することを想定してつくられているので、子どもの学年と学習時間に合わせた新しい教材が必要になります。現在、文部科学省では移行措置や先行実施に向けて、小学3年生から6年生まで使用できる新しい教材「We Can!」の準備が進められています。これに伴い、各教材会社からも新しい教材が多数販売されると予想されます。
 2018年度から始まる外国語教育は、2020年度以降の中学校での外国語教育にも大きな影響を与えます。今後の教育産業において、その動向を随時探っていく必要があります。

(4)小学校から開始される「道徳の教科化」
 2018年度より、「特別な教科」として格上げされた「道徳科」の授業が小学校で全面実施されます。2015年3月に改正された学習指導要領に基づき、すでに2015年度から移行措置が始まっていましたが、2018年度からは検定教科書を使って授業が行われるようになります。
 そもそも道徳教育は、学習指導要領において「学校の教育活動全体を通じて行うもの」としており、授業で使うための教科書もありませんでした。「道徳」の授業は週1時間設けられていたものの、教科書ではなく、文部科学省が作成する道徳用教材『心のノート』や、教科書会社が発行する副読本が用いられてきました。しかし、実際の授業が副読本を読むだけの時間になってしまい、十分な道徳教育が行われていないのではないかという指摘がありました。また、いじめ問題やインターネット上でのトラブルなど、社会の変動により子どもたちがかかえる問題が増え、社会生活を営むためのルールやマナー、判断力などが子どもたちにも求められるようになりました。文部科学省は、「一人一人が道徳的価値の自覚のもとで、自ら感じ、考え、他者と対話し協働しながら、よりよい方向を目指す資質・能力を備える」ことを目的に、「道徳」を国語や算数などと並ぶ「教科」として格上げし、文部科学省の検定教科書に基づいて授業を行う方針を示しました。また、物語を読んで登場人物の心情を理解するだけの「読む道徳」から、答えが一つではない道徳的な課題を一人一人が考える「考え、議論する道徳」を目指した授業目標を掲げました。2018年度からは教科書を使った新しい道徳の授業が行われるようになり、教育現場がどのような工夫を行うのかに注目が集まります。

 このように、2018年度から教育現場で新学習指導要領の全面実施に向けた取り組みが行われるようになります。来年から始まる教材・教具の改訂に向けて、新学習指導要領の内容が教育現場でどのように実践されていくのかに注目していく必要があります。(文/学林舎編集部)