2018.10.19

○Cross Road
第86回 大学の役割 文/吉田 良治

 マイクロソフトの創業者といえば、思い浮かぶ名前がビル・ゲイツという方も多いでしょう。マイクロソフトはビル・ゲイツと友人であるポール・アレンが共同で創業した会社です。ビル・ゲイツは実業家としての側面と慈善活動家としての側面があることは有名ですが、ポール・アレンはマイクロソフトを離れた後多方面で活動をされてきました。有名なのはNFLシアトル・シーホークスやNBAポートランド・トレイルブレイザーズ、MLSシアトル・サウンダースFCといった、地元のプロスポーツチームのオーナーという側面も持っていました。今月ポール・アレンが65歳で亡くなりました。彼が多方面で残した功績は大きく、その損失は計り知れません。
 私が以前フットボールチームのアシスタントコーチをしたワシントン大学には、ポール・アレンが深く関わってこられました。シアトル・シーホークスのオーナーになるきっかけ、つまりフットボールに関心を持つきっかけは、子どものころ父親に連れられ、ワシントン大学のフットボールの試合を見たことだったそうです。シアトル・シーホークスのオーナー時代、ワシントン大学にはポール・アレンから2つの大きなギフトがありました。一つは巨大な電光スコアボードで、300万ドルほどの費用をポール・アレンが負担されたそうです。そしてもう一つは人工芝でその工事費が100万ドルとのことで、毎年高額所得のランキングの上位になるポール・アレンにとってはちょっとしたポケットマネーだったと聞きました。本業の大学教育・研究については、大学の校舎に彼の名が付いた施設があります、ポール・アレンセンター・コンピューターサイエンス&エンジニアリングです。優秀なIT人材の輩出や次世代の新産業の創造を目的しています。人材、そして産業も常に進化していかなければなりません。そのための教育と研究・開発機関を支援することは、ビジネスで成功した者の大きな役割となっています。
 シアトルにはマイクロソフトをはじめ、アマゾン、スターバックスコーヒー、コストコ、エクスペディア、ボーイングといった、世界的な企業が拠点を構え、コンピュータソフトウェア産業、そして遺伝子産業の世界的な拠点となっています。シアトルは今経済発展が著しく、その大きな要素は大学の2つの側面、人材育成と研究開発の大学力にあるといわれています。ワシントン大学の卒業生の多くは、シアトルをはじめワシントン州に残り仕事を見つけるそうです。ポール・アレンが支援したコンピュータサイエンスを専攻したものは、優秀なら新卒でも年俸8万~10万ドル+5万ドルのボーナスを得るといわれています。つまり、野球に例えると卒業後すぐにバッターボックスに立って結果を出す野球選手のようなものです。このレベルで大学生を社会へ送り出すこと、その能力を十分に発揮できる機会があることこそ、大学が創造するべき役割になります。
 日本では経団連が新卒採用のルールを撤廃し、通年採用ができる環境を作ろうとしています。今まで日本で一般的だった新卒一括採用、終身雇用といった日本的な雇用も、時代に合わなくなってきています。企業が職歴のない学生を雇用し、一から仕事を教えるといった新卒雇用は今後なくなっていきます。大学、そして大学生は新しい雇用形態に適応していくことが求められますが、企業側もポール・アレンが行ったように、社会で成功したものが大学、そして大学生への支援をセットで行っていかないと、結局企業側の都合に振り回され、誰も幸せにはなりません。

 最後に地元シアトルの発展のため尽力された、ポール・アレンのご冥福をお祈りします。(つづく)

吉田良治さんBlog