2018.11.16

2018年学習の行き先 小学校の漢字指導について考える

 「かん字を家ていで学しゅうします。」

 この一文が年度末の時点で書かれたものだとすると、小学何年生が書いた文ということになるでしょうか。この問いについて、小学校低学年の児童に国語を教えている方は、すんなりと答えられるかもしれません。即答できる方は、「小学2年生」と答えるのではないでしょうか。それは、この一文において漢字で表記されている「字」「学」が小学1年生、「家」が小学2年生で学習する漢字であり、一方、「かん字」の「漢」や「家てい」の「庭」、「学しゅう」の「習」といった小学3年生で学習する漢字がひらがなで表記されているからです。
 これは、文部科学省が発表している「学年別漢字配当表」にもとづくものです。この「学年別漢字配当表」について、「学習指導要領」の小学2年生の「各学年の目標及び内容」では次のように書かれています。

 第2学年においては、学年別漢字配当表の第2学年までに配当されている漢字を読むこと。また、第1学年に配当されている漢字を書き、文や文章の中で使うとともに、第2学年に配当されている漢字を漸次書き、文や文章の中で使うこと。

 つまり、年度末の時点では当該学年で学習する漢字を書けるようになっておきましょう、ということです。学年に応じた学習内容という点では、この目標自体は自然なものだといえます。
 しかし、これにこだわりすぎて漢字学習の本分を見失っている指導者もいるように見受けられます。上記の例文でいえば、小学2年生に対して、「漢」は学習していないのだから「漢字」と書いてはいけません、というような指導です。
 学習していない漢字を書くことは、確かに「目標」からは外れます。しかし、だからといって児童が自ら漢字を学習するのを抑制することに意義はありません。小学校の6年間を通して、児童は「教育漢字」を一通り学習します。社会生活において漢字の読み書きが必要とされるなかで、児童は「教育漢字」の読み書きの知識を小学生のうちに獲得していきます。そうして社会の中で生きていくための能力を身につけるわけです。中には、学校で学習していなくても自発的に漢字を学習しようとする児童や、生活の中で目にする機会が多い漢字を自然に読み書きできるようになる児童もいるでしょう。
 漢字を覚えることは、漢字の意味を覚えること、ひいては言葉の意味を覚えることにもつながります。つまり、漢字の学習は語彙力の育成にも大きく寄与するのです。それは、児童が社会の中で生活していけるようになるための大きな一歩です。
 社会生活で読み書きできるようになるべき漢字を生活の中で覚えていくというのは、漢字指導においては理想的な学習ともいえることです。それが指導者によって抑制されるというのでは、指導どころか学習者の足を引っ張ることにしかなりません。
 指導者からの働きかけについては、学習指導要領の「指導計画の作成と内容の取扱い」で次のように言及されています。

 当該学年より後の学年に配当されている漢字及びそれ以外の漢字については、振り仮名を付けるなど、児童の学習負担に配慮しつつ提示することができること。

 「児童の学習負担に配慮しつつ」とはありますが、それは学習していない漢字の使用を止めるということではありません。指導者からの働きかけとして児童に対して示す目標は、学習指導要領にあるとおり、学習したものを書けるようになっていくという前提で考えればよいということです。
 それでも児童が学習していない漢字を書こうとしているとき、つまり、できないことをできるようになろうとしているときは、指導者が児童を支え、正確な漢字知識の獲得へと導いてあげることが肝要です。(文/学林舎編集部)