2019.05.17

○Cross Road 第93回 進化したサニブラウンから 文/吉田 良治

 
 現在アメリカのフロリダ大学に留学中の陸上短距離選手のサニブラウンは、今月SECチャンピオンシップ(南東リーグ選手権)に出場し、日本人2人目の男子100m10秒の壁を破る9秒99で優勝しました。来月はNCAA(全米大学体育協会)大学陸上選手権や日本陸上競技選手権、そして7月は全米陸上選手権などの出場が予定され、また9月には世界陸上競技選手権も開催されますので、さらなる記録更新の期待も高まります。
 近年アメリカの大学を目指す日本人アスリートが増えています。バスケットボールではジョージワシントン大学に進学し、現在NBAメンフィス・グリズリーズで活躍中の渡辺雄太、ゴンザガ大学で活躍し、今年のNBAドラフトの目玉の八村塁をはじめ、多くの日本人がアメリカの大学でバスケットボールをしています。サッカーでもメリーランド大学で活躍し、現在北米プロサッカーリーグのMLSトロントFCで活躍している遠藤翼をはじめ、アメリカの大学でサッカーをしている日本人選手が増えています。
 これらの日本人選手が所属するアメリカの大学スポーツ、NCAAは学業優先の大原則があり、秋、冬、春の3つのシーズンでスポーツ活動が行われます。学業成績はGPA(学業評価指数)2.0(100点満点で70点に相当)以上が求められ、これを下回ると試合や練習などの活動が停止になります。またスポーツシーズン制により、年中一つのスポーツをし続けることができず、春スポーツの陸上競技は秋・冬シーズンに活動することはできません。秋スポーツのサッカー、冬スポーツのバスケットボールも同様です。年間の半分近くはオフシーズンですので、試合をすることはありませんし、練習もウェイトトレーニングなどのコンディショニングに限定されます。年中ほぼ制限なくスポーツ活動ができる日本からすると、日本人がアメリカの大学で競技力を高めるのは難しいと考えがちですが、前記に上げた日本人選手のように、学業を優先し、練習や試合の制限を設けながら、トップレベルの成績を挙げている実績を見ると、そろそろ“○○一筋思考”を変える時代に入ったといえます。
 サニブラウンの通うフロリダ大学はイギリス・タイムズ誌の世界大学ランキング156位、渡辺雄太が卒業したジョージワシントンは181位、遠藤翼の卒業したメリーランド大学は82位で、日本では東京大学(42位)と京都大学(65位)しか入っていない世界200位以内の大学です。このレベルで文武両道を実践し、それぞれで高いレベルの成績を収めることは、新しい令和の時代に必要な総合的な人間力を育んでいきます。
 アメリカの大学スポーツNCAAをモデルに今年3月、日本の大学スポーツ改革・大学スポーツ協会・UNIVASが設立されました。この国の政策は年間1,000億円の収入があるNCAAをモデルに、日本の大学スポーツを産業化することが目的で始まりました。しかし、良識ある大学スポーツに関わる関係者から、これまで日本のスポーツ界で蔓延してきた体罰などの問題、そして学業を疎かにするスポーツ偏重の文化を改善することは、大学スポーツの産業化以上に重要!との声を受け、現在様々な課題の改善を目的に活動をしています。私もUNIVAS設立準備委員会で学業充実・学習機会確保部会に参加し、学生アスリートが健全に学生スポーツの活動ができる環境整備に関わりました。
 有望な若手アスリートの海外流出は、今後も続いていくことが予測されます。特にオリンピックや世界的なプロスポーツの舞台で活躍する日本人アスリートの登竜門がNCAAとなれば、スポーツ庁の鈴木大地長官が危惧する“大学スポーツの魅力を出していかないと、日本の大学を素通りすることがますます起こりうる”は、さらに加速していくことになります。(つづく)

吉田良治さんBlog