○Cross Road 第94回 体罰問題 文/吉田 良治
2012年に発生した大阪・桜宮高校バスケットボール部の生徒への体罰による自殺事件以降、日本のスポーツや教育の指導の現場での体罰に対して、厳しい対応が始まりました。体罰、つまり暴力で若者をしつけるという、日本に根深く残る負の歴史は、そろそろ改善させるべき時期にあるということで、国中で体罰を取り締まる動きが強まりました。ちょうどその時期は2020年のオリンピック招致の最終段階で、東京が立候補していた関係で「日本のスポーツ界に根深い体罰の文化が、オリンピック招致に悪影響が出るのでは」と、国も躍起になって火消しに回りました。しかし、長年続いた負の歴史はそう簡単に変えることは困難です。その後もスポーツ界はもちろん、教育の現場、最近では家庭での子供の躾と称し、児童虐待も深刻化しています。先月は兵庫県尼崎市の私立尼崎高校の複数の部活で体罰の報道がありました。中には全国優勝するような強豪スポーツも含まれ、体罰がないと強くできない!という、未だに暴力を用いて指導するスポーツ指導者が存在していることが明らかになりました。暴力はいかなる理由があっても犯罪です。犯罪を用いてスポーツや教育の指導の現場、そして家庭で躾をすることは、ある意味その指導は破綻しているといえます。暴力という反社会行為で正しい指導などありえません。そのことを自覚し、正しい指導法を身につけることが、スポーツ、教育の指導者、そして親がまず身につけるべき術となります。
現在PHP研究所ではスポーツコンプライアンス・パワハラ防止のテキスト“実践!グッドコーチング”を制作しています。ケーススタディをもとに、パワハラや体罰と認定させるのはどういうケースなのか、まずは法的にアウトになる行為を理解することが目的になります。自動車の運転で例えれば、ブレーキを踏むことがこのテキストの役割となります。スポーツ庁や日本スポーツ協会などが製作協力しており、私も指導者の立場でどう改善するのか、その方向性をこのテキストの中で共有しています。今後日本スポーツ協会加盟のスポーツ競技団体や、今年設立された大学スポーツ協会・UNIVASなどが中心となり“実践!グッドコーチング”を用いた取り組みやプログラムの開発とその提供が進んでいくことになると思われます。
ブレーキを踏むことだけでは指導者が成長できません。指導者が正しく成長するためにはアクセルが必要です。私は独自にスポーツマンシップマインドを育むテキスト、“スポーツマンシップ・フィットネス1.0”を作成しました。自動車の運転で例えるとこのテキストがアクセルを踏み込むことに当たります。“実践!グッドコーチング”は体罰やパワハラにならないためにブレーキ踏む、“スポーツマンシップ・フィットネス1.0”は正しい指導に思いきりアクセルを踏む、この両輪が兼ね備わって初めて正しい指導法が確立されていきます。
これまで体罰やパワハラといったネガティブな思考回路しか持たない指導者には、体罰やパワハラを用いないで指導できるために、新たな思考回路を開く必要があります。“実践!グッドコーチング”と“スポーツマンシップ・フィットネス1.0”がともにその持ち味を生かしながら、令和(美しい調和)の時代に合った指導法の確立と、思考回路の開発に役立てていただければ幸いです。(つづく)
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