2019年 学習の行き先 科目学習する意味を考える—社会編
これまでに、算数と理科を学習する意味について考えてきました。今回は、社会科を学習する意味について考えたいと思います。
社会科とはどういう教科か?と問うと、「暗記教科」である、と答えられることがあります。確かにかつては、できごとが起こった年代そのものの数字が問われるといった暗記力を問う問題がテストで多く出されていました。しかし、近年はそのような出題はほぼ見られなくなっています。社会科という教科は、問われる内容が大きく変わってきており、学校での学習内容も大きく変化してきています。
では、現在の社会科という教科の立ち位置や目標は、どのようになっているのでしょうか。
学習指導要領における社会科の教育目標は、「公民としての資質・能力」の育成を目指すことです。「公民としての資質・能力」とは、「平和で民主的な国家・社会の形成者としての自覚、自他の人格を互いに尊重し合うこと、社会的義務や責任を果たそうとすることなど、社会生活の様々な場面で多面的に考えたり、公正に判断したりすること」などのことです。
世の中を表す「社会」と教科名を表す「社会」科は同じ表記です。教科としての社会科とは、今の世の中を生きていくために必要な、ものごとについて事象を整理し、原因や結果を学習して、社会的な見方や考え方を身につけることが求められている教科といえます。
実際に、例えば中学公民では、最初の方の単元で、ものの見方や考え方を学びます。この学習で、子どもたちは次のことを学びます。
・人がたくさん集まると社会ができるが、社会にはいろいろな人がいることから対立がおこる。
・人の考え方には効率や公正などの理由からいろいろな立場があり、いずれも間違っていないため、考え方を1つにまとめることができない。
・しかし、何らかの合意を持つために話し合いを行う。
この学習を通して、子どもたちは社会で生きる上で、正しい答えはなくても、何かを決めなければならないできごとがたくさんあることを理解します。
これらの対立、話し合い、合意は、私たちの日常生活においても常に行われていることです。例えば、学校のグラウンドを昼休みに使う場合、どの学年がいつ使うのか、話し合いで決めることが多いでしょう。これは学校だけでなく、家庭でも、仕事でも、そして政治でも同様です。例えば道路をつくろうとしたときに、その道路が通る予定の土地に住んでいる住民と、その道路がないと困る住民ではそれぞれに意見が違いますが、道路をつくるかつくらないかは両方の意見を聞いて、決めなければなりません。
現代の社会では、このように立場によって違う考え方を知ること、もしその場面に自分がいたらどうするかを理由とともに考えられる力を身につけることが必要です。そしてその力を身につけるために、社会科という教科があります。歴史を学ぶのは、過去に何が起きたか、そのとき、過去の人々はどうしてきたか、人々の判断を知るためです。地理を学ぶのは、住むところや考え方が自分たちと大きく異なる世界の人々のことを知るためです。これらを学び、過去と現在、他人の考え方と自分の考え方を学習することによって、子ども自身にとって必要な「公民としての資質・能力」が身につくといえるでしょう。
小学6年生では、今まで歴史を学習したあとで政治や国際を学んでいましたが、今回の学指導要領の改訂で、先に政治を学習したあと、歴史を学ぶようになりました。これも今述べてきたような資質を、小学生のうちから身につけていってほしいという考えが反映されているからです。
子どもたちが将来、仕事をするなかで、他人の立場を思いやることができ、さらに自分の考えを理論的に説明する能力が発揮できる、そんな資質を身につけられるよう、社会科の教育を進めていくことが理想ではないでしょうか。(文/学林舎編集部)
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