2020.07.02

表現力を育てる-豊かな表現力を目指して

表現力を育てる

 

 文部科学省は学習指導要領の柱に「表現力」の育成を提示しています。「表現力」について少し考えてみたいと思います。

 

表現力を育てる

 たとえば、果樹園に行って木になっているりんごを見たとします。そのりんごを表現するときに、どのような言い方があるか考えてみましょう。「ぼくはりんごを見ました。」と言えば、りんごの雰囲気があまり伝わりません。「赤いりんご」と「真っ赤なりんご」とでも、少し違った感じがしますね。
 「ピカピカ輝く真っ赤なりんご」とすれば、かなりイメージが広がります。「ぼくは、太陽の光をいっぱいにあびてピカピカ輝く真っ赤なりんごを見ました。」とすれば、その場の雰囲気がよく伝わってきます。

 このように表現の仕方の違いひとつで、文章(作文など)の印象深さが変わってきます。
 オリジナリティのある文章を書くには、体験談を入れることが必要です。体験を書くときには、その時に感じた気持ちを入れる必要があります。その感情を表現する時でも、表現を豊かにすることが大切です。
 たとえば、ある男の子がサッカーの試合で、PK戦の代表に選ばれ、シュートをしようとしている場面を想定しましょう。

表現力を育てる

 「ぼくがこのPKを決めれば、ぼくたちのチームが勝ちます。ぼくはボールを置いて、ゴールキーパーを見ました。ぼくはとても緊張しました。」
 確かに、その時の様子は、読む人に伝わります。しかし、その時の作者の感情については、印象深く伝わってきません。
 「ぼくがこのPKを決めれば、ぼくたちのチームが勝ちます。ぼくはボールを置いて、ゴールキーパーを見ました。心臓がバクバク打って、今にも飛び出してきそうでした。」
 作者の緊張している様子がよく伝わりますね。うれしいという気持ちを表現する場合でも、「わたしはとてもうれしく思いました。」よりも、「わたしは飛び上がりたいくらいうれしくなり、まわりがぱっと明るくなった感じがしました。」のほうが、気持ちがよく伝わります。悲しい気持ちを表現するときでも、「わたしはとても悲しくなりました。」よりも、「涙があふれてきたので、わたしは部屋にもどってひとりで泣きました。」と書くほうが、悲しみの深さが伝わります。

 次に、たとえを使って表す比喩について考えてみましょう。比喩には、「~のような」などの言葉を使ってたとえる直喩と、たとえの言葉を使わない隠喩があります。隠喩は難しいので、ここでは、直喩の表現について考えましょう。
 花見に行ったときのことを書いた作文です。

表現力を育てる

 

例1
 ぼくは家族といっしょに花見に行きました。ぼくたちが桜の花がたくさんある川原につくと、もう人がたくさん来ていました。きれいな桜の花の下にすわって、みんなで弁当を食べました。弁当はとてもおいしかったです。その後、みんなで歌を歌ったりして楽しみました。

例2
 ぼくは家族といっしょに花見に行きました。花見の場所には、休みの遊園地のように人がたくさんいて、みんな楽しそうに話したり、写真をとったりしていました。桜の木の下にすわると、光の色がぱっと変わりました。まるでピンク色のベールに包まれたみたいでした。

 例2の太字に比喩が使われています。例1に比べて、人が多い様子や、桜の花の様子が印象深く伝わります。気持ちをわかりやすく伝えることや、比喩を使って何かを表現することは難しいかもしれません。そのためには、ふだんからいろいろなものをしっかり見つめ、経験したことに対してどのような思いを感じたのかを、心に残す習慣を身につける必要があります。(文/学林舎情報NO.134改)