○Cross Road 108回 世界から人権侵害と指摘を 受けた日本のスポーツ界 文/吉田 良治
先月世界最大の人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ・HRWが、日本のスポーツ界の暴力の実態を調査した報告書“「『数えきれないほど叩かれて』:日本のスポーツにおける子どもの虐待」”を公開しました。私はWebで行われた記者会見に参加し、人権に厳しい目を持つ世界最大の人権NGOに日本のスポーツ界がどう映っていたのか、直接確認しました。
日本ではスポーツに限らず、家庭での躾、教育機関や職場での指導など、日本の社会にはまだまだ体罰やパワハラに依存する体質が抜きれていません。スポーツ界の体罰については、厳しい指導がないと強くなれない、という見方が一般的で、このぐらいなら許容範囲、と受け止められることが少なくありません。家庭での躾で体罰を使わないと、躾ができない親はどうすればいいのか、教育機関では教師から体罰を取り上げると生徒が教師をなめる、といった意見も聞かれます。多くは体罰を経験してその経験値が躾や指導に有効と受け入れてきたのです。
HRWが日本のスポーツ界の暴力に着目するきっかけは、2012年に発生した大阪・桜宮高校バスケットボール部の体罰・自殺事件でした。当時は2020年東京五輪・パラリンピックの招致活動最終局面で、もしこの体罰問題がIOCで問題視されると、招致に悪影響になる!と受け止め、火消しに躍起になりました。その後オリンピック女子柔道代表チーム内でパワハラ問題が噴出するなど、多くの体罰やパワハラ事案が出てきました。翌年2020年のオリンピック開催地が東京に決定すると、体罰やパワハラの改善の動きは自然消滅していきました。その後も高校野球では毎月日本学生野球協会から公表される不祥事処分で、暴力による処分が2桁になることも少なくなく、大相撲でもたびたび暴力問題が出てきました。
HRWの“(日本では)メダル獲得努力の裏の子どもの虐待”という痛烈な指摘を受けて、IOCは日本のスポーツ界の暴力問題の改善について、JOCと電話会議を行いました。IOCのオリンピック憲章にはスポーツにおける暴力に反対していることもあり、オリンピック憲章に反する行為がスポーツ界で横行する日本で、オリンピックを開催することが正しいことなのか、今一度日本のスポーツ界は猛省し、健全化に向けて取り組む必要があります。
スポーツ界に限らず不祥事後、“再発防止に努めます”というその場しのぎの念仏と、単発でアリバイ作りの研修をするケースが多くあります。これでは真の健全化は難しいといえます。真の健全化には日々実践し、継続して取り組むプログラムが必要です。重要なカギはスポーツマンシップです。日本では掛け声のスポーツマンシップはあっても、実践し続けるスポーツマンシップはそう多くありません。実践でスポーツマンシップがない時点で、スポーツをする資格はありません。特に、犯罪行為の暴力をスポーツに持ち込む段階で、そのスポーツは何の意味も持ちません。日本のスポーツ界が真のスポーツマンシップを自然に実践できるようになり、それを社会に共有していくことで、スポーツ界の健全化はもちろん、社会にある同様の問題の健全化にもつながっていきます。
今年は新型コロナウイルス・新型肺炎の感染が拡大し、スポーツ界ではクラスター感染が続いています。若者は比較的無症状や軽症者が多いとされていますが、アメリカでは心筋炎を併発・後遺症になるケースも報告され、命にかかわる心不全につながる恐れもあり、大学スポーツは秋シーズンのスポーツを春まで延期する動きも出ています。消毒や検温くらいで感染拡大は防げません。このような環境でスポーツ活動を再開することは、ある意味パワハラという見方をしてもいいのかもしれません。日本には人権意識、そして人の命に向き合うスポーツ運営が求められます。(つづく)
学生アスリート教育プログラム 紹介動画(追手門学院大学) 吉田良治さん指導
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