2021.03.19

○Cross Road 115回 世界最先端の学業とスポーツ  文/吉田 良治

コロナ禍のアスリートが 抱えるリスク

 

 2月から朝日新聞で、ハーバード大学へ留学された佐野月咲さんの連載記事が掲載されてきました。佐野さんは女子アイスホッケーのU-18日本代表にも選ばれた若手のトップアスリートですが、高校2年生の時にU-18日本代表から落選したことで、大学進学の目標が東京大学からハーバード大学へ変更されました。ハーバード大学といえば世界トップクラスの大学(イギリス・タイムズ誌の世界大学ランキング3位)です。東京大学が世界大学ランキング36位ですので、学業でもより高いレベルを目指されました。しかし、目的には学業だけでなく、アイスホッケーでもレベルアップを考えての大学進学でした。
 ハーバード大学の女子アイスホッケーチームは、オリンピックメダリストを多く輩出するアイスホッケーの名門です。ハーバード大学が所属するアイビーリーグには、オリンピック決勝を争うアメリカ代表とカナダ代表が多く所属している大学がひしめいています。つまり、常にオリンピック決勝レベルの戦いの場がそこにあるということです。
 アメリカの大学では学業成績が基準(G.P.A2.0以上)を満たさないと、スポーツ活動に参加することができません。一般の学生でも単位を取得することが容易でないハイレベルな学業基準をクリアし、そのうえでスポーツでも世界のトップを争うスーパーアスリートの集まる場、それがアメリカの大学スポーツです。一方、日本では学業では進学できなくても、高校時代のスポーツ競技の実績さえあれば、学業成績を問わないケースも少なくありません。

アスリートの選択

 アメリカの大学ではスポーツ推薦といえど高校での学業成績は重要で、求められる学業の質は一般の受験生と何ら変わることはありません。大学に入れば大学の学業成績で基準をクリアできなければ、スポーツ活動に参加できなくなるばかりか、大学に在籍し続けることもできなくなります。アメリカのスポーツ推薦のメリットは、高額な学費に対する奨学金の獲得にあります。州立大学なら4年間で500万~1,000万円、ハーバード大学など私立大学になると、4年間で家一軒(2,500万~3,000万円)に匹敵する費用(学費、教材、寮、食事など)が必要になります。その費用を給付型奨学金で賄うことができるのが、 アメリカのスポーツ推薦の最大のメリットといえます。その奨学金も学業成績が基準を満たさなければ打ち切られるので、大学を去るしかないのです。
 昨年朝日新聞のWebニュースのWithnewsで、私が以前フットボールチームのアシスタントコーチをした、ワシントン大学に留学している荒川夏帆さんの特集記事が掲載されました。ワシントン大学は世界大学ランキング29位と、こちらも教育レベルの高い大学です。荒川さんはテニスチームに在籍し、全米ランキング上位を破るなど、全米週間MVPにも選ばれました。そして、学業成績はG.P.A4.0の満点を記録するなど、こちらも学業とスポーツでトップレベルを実践されました。
 日本ではスポーツに専念しないと強くなれない、海外の選手に比べ日本人は体力で劣るので、練習量が多くないと勝てない、という考えが根深くあります。しかし、佐野さんや荒川さんのように、スポーツ偏重という日本の環境を飛び出して、学業とスポーツの両立や多様な生き方を実践しながら、競技力を高める若者が増えてきました。
 優秀な日本人若手アスリートの海外流失が続く中、日本ではアメリカの大学スポーツをモデルに、2年前に大学スポーツ協会・UNIVASが設立されました。日本でも学業とスポーツの両立できる環境“文武の2つの道を同時に歩くのではなく、一つの道の中に文と武の両方がある!(佐野月咲)”、多様な生き方が実践できる環境作りが求められています。(つづく)

 

学生アスリート教育プログラム 紹介動画(追手門学院大学) 吉田良治さん指導

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